教育コース
循環型社会を創造し形成できる人物に

2050年には、世界の人口は97億人に達すると予想されています。次の世代の人類が必要とする量の食糧やエネルギーを持続的に供給でき、しかも環境負荷を最小限にしたシステムを構築しておくことが、現世代の人類の最重要課題の一つとなっています。エネルギー資源については、それまでは採掘が困難であったシェール(頁岩)と呼ばれる岩盤層の隙間に閉じ込められた原油や天然ガスの掘削技術が確立されたり、低温高圧化でメタンガス分子が水分子に囲まれて生成されるメタンハイドレートが深海に大量に存在していることが発見されたりして、当時、人々は一定の安心感を得ました。一方、水力の他、風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーの活用も着実に広がっています。例えば、人口や経済規模は小さいですが、アイスランドでは、すでに水力と地熱発電による電力量が同国の総発電量のほぼ100%を占めています。また、デンマークでは、風力発電による電力量が同国の総発電量の50%を超えるに至っています。日本でも再生可能エネルギー電源による発電量は20%近くにまで増えています。
再生可能エネルギーの活用の広がりが成功しているのは、なぜでしょうか。第一に、2020年の菅総理のカーボンニュートラル宣言、2015年のパリ協定、2008年の福田総理によるクールアース推進構想や福田ビジョンの発表など、国際的な枠組みや国家としての宣言と具体的な目標の設定が重要な役割を果たしています。人々や企業がそれに共感し、安心して、その目標に向けた研究や製品開発に取り組めるからです。このような環境で開発された高性能で高効率な太陽光発電パネルや風力発電設備は、採算面でも石油火力発電より優位に立っています。また、研究開発の財政的支援や再生可能発電電力の固定買取制度など、初期のテコ入れ政策や仕組みの導入も重要です。福田ビジョンは、太陽光発電を2008年度比で40倍に増やすことを目標に掲げていましたが、2030年を待たずに、すでに太陽光発電の導入量は2030年の目標量を超えています。
同志社-ダイキン「次の環境」研究センターでは、二酸化炭素を回収・分解・再利用する新技術の開発や高効率空調機の開発が行われています。いずれも、地球環境問題解決を目指した革新的技術の開発です。日本の二酸化炭素排出量は、世界全体の3%程度ですので、日本だけで減らしてもあまり意味はありませんが、これらの技術開発が成功し、世界展開されれば、地球温暖化の抑制と循環型社会の形成に大いに寄与するものと期待されます。
循環型社会を形成し推進していくためには、自然科学と人文・社会科学の知識をあわせ持ち、環境問題に取り組むことができる人物・人材の育成が鍵になります。同志社-ダイキン「次の環境」研究センターは、「次の環境」を創る人物・人材を育成するために、2021年4月に文理融合の「次の環境」協創コースを開設しています。ダイキン工業の若手社員の方々と本学の大学院生が一緒になって、お互いに刺激を受けながら学修します。そして、環境を総合問題として捉える視点と知識を習得します。将来の現役世代になりきって、課題に応じた新たな技術アイデア等を話し合い、さらにそれらのアイデアから研究テーマを立案します。次の世代の人類のために循環型社会を創造し形成できる人物を目指してみませんか。
高等研究教育院 所長 馬場 吉弘